Biography
田中堅大(たなか・けんた)
1993年、東京都生まれ。ギタリスト/サウンドアーティスト/都市音楽家。
都市の現象を音楽/サウンドアート制作に応用することで、都市を主題に音を紡ぐ「都市作曲(Urban Composition)」の確立を模索している。
主な展示作品に「Urban Flou」(Mercerie、ブリュッセル / 2024)、「Fictional Soundscapes」(KIOSK Zwarte Zaal、ゲント / 2021)、「Algorithmic Urban Composition」(CCRMA Listening Room、スタンフォード / 2019)など。個展として、都市の記憶を回想するサウンドインスタレーション「Urban Reminiscence—Sound, Object, and Rhythm」(Sta.、東京 / 2020)。主な参加レジデンスプログラムとして、PARADISE AIR「時を解く」(松戸 / 2021)など。スコア作品として、「In Harmony with City」が『A Year of Deep Listening: 365 Text Scores for Pauline Oliveros』(Terra Nova Press / 2025)に収録されている。
ギタリストとして、ギターの音色を逆再生・遅延・伸縮させ、それらをシンセサイザーやフィールドレコーディングの音とともに多層に重ねることで、演奏や音源制作を行なっている。シングル「Transient Reminiscence」「Abstract School」を2024年にデジタルリリース、2025年秋にアルバム『Poetics of Non-Savoir』をリリース予定。共作として、Riki Hidakaとのカセットアルバム『possibility to see you again』(2019)をShiny Brand Recordsから100本限定でリリース。2018年より、26人のメンバーから構成される現代版オーケストラ・蓮沼執太フルフィルにギタリストとして参加。蓮沼執太フルフィル名義での参加アルバムとして『フルフォニー』(2020)がある。
自ら企画・編集・デザインをするメディア媒体として、音楽を取り巻く環境への批評zine『jingle』(2015年)を創刊(200部限定発行)。続編として、都市・ニューヨークの音楽を取り巻く環境を特集した『jingle 002』(2021年)を発表(400部限定発行)、全国23店舗にて販売。現在、ヨーロッパの音を取り巻く環境を特集する『jingle 003』を制作中。
慶應義塾大学環境情報学部卒業。在学中にアメリカ・ニューヨークに1年留学し、グラフィックデザインを学ぶ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科エクス・デザインプログラム修士課程修了(デザイン)。その後、ベルギー・オランダ・フランスを巡り、音と都市空間の関係性に着目したサウンドアートの実践と研究に従事し、ゲント王立芸術音楽院のEuropean Postgraduate in Arts in Soundを修了(サウンド)。
Statement
都市と音楽について
1.
都市に耳を傾けてみる。それは騒音か、音か、もしくは音楽か。
2.
都市を聴くとは、その都市に関わる人や物が直接的・観念的に経験する総体の一部に耳を傾けることであり、1人の聴取者が一度に都市のすべてを聴くことはできない。
3.
都市に音を配置することは、都市へのささやかな介入として、日常空間に音を溶け込ませることである。それは聴かれるかもしれないし、聴かれないかもしれない不確実な約束を都市に残すことである。
4.
都市の音楽に実体はなく、都市を遊歩するときに聴こえてくる音、そして感覚器官が無意識に想起する記憶や音像、それらすべての関係性の総体が、都市の音楽を構成している。
5.
都市の経験が主観に依拠しているように、音の経験も人によって異なり、さらに文脈依存である。どのような状況でなにを聴取するのかによって、音が人間にもたらす影響は全く異なる。
6.
都市自体が常に生成を繰り返す環境音楽である。
7.
都市と音楽、それら異なる2つは同質に複雑系であり、1人の都市生活者が都市のすべてを理解することは到底不可能なように、1人の聴取者が都市のすべてを1度に聴くことはできない。都市も音楽も、どのような状況下で体験するかによって、全く異なる体験になる。体験する主体や客体が変化すれば、都市と音楽はその度に生まれ変わる。
8.
複数の都市の音を並行させてみる。それぞれのリズムが絡み合う。ときに共鳴し、ときに不協和を奏でる。騒音が音になり、偶然に音楽を奏でる。そしてまた騒音へと戻っていく。都市は常に音楽となる瞬間を探している。
田中堅大
2020年7月4日初稿執筆